猫 Stage 2
Stage 1のすべての推奨事項に加えて,いくつかの項目を追加する。
- 可能な場合,腎毒性のある物質の投与をすべて中止する。
- 腎前性および腎後性の異常の有無を確認し,ある場合には治療を行う。
- 腎盂腎炎(尿路感染症はすべて腎盂腎炎につながる可能性があるため,適切に治療すること)や腎結石など治療できる疾患を除外するため, X線検査や超音波検査を行う。
- 血圧および尿タンパク/クレアチニン比(UP/C)を測定する。
- 腎臓病用の食事療法の開始を考慮する。 CKDでは,食欲不振が生じる前の早期の方が食事療法を実施しやすい。
脱水の管理
Stage 2では,尿濃縮能が低下しているため,
-
臨床的脱水,すなわち循環血液量の減少を補正する。
等張電解質輸液(乳酸リンゲル液など)を必要に応じて静脈内投与または皮下投与する。 - 猫がいつでも新鮮な水を飲めるようにしておく。
全身性高血圧
これ以上になると進行性の腎障害が生じやすくなるというような血圧の限界値は十分に検討されていない。
収縮期血圧を < 160 mmHgに抑え,腎臓以外の標的器官(中枢神経系,網膜,心臓)へのダメージを最小限にすることが目標である。
ダメージがみられなくても,収縮期血圧が持続的に160 mmHgを超えている場合には,治療を開始する。
‘持続的な’ 収縮期血圧の上昇の判定は,以下に示した期間に数回血圧を測定した上で決定する。
- 高血圧(将来的な標的器官障害への中程度リスク)1〜2ヵ月間にわたり収縮期血圧が160〜179 mmHg
- 重度高血圧(将来的な標的器官障害への高リスク)1〜2週間にわたり収縮期血圧が180 mmHg以上
標的器官のダメージが明らかな場合には,持続的な収縮期血圧の上昇がみられなくても治療を開始する。
血圧を低下させることは,CKDの猫を管理する際の長期的目標である。
急激に,または過度に血圧を減少させると低血圧を引き起こす可能性があるため,血圧は少しずつ低下させるようにする。
次のような論理的かつ段階的なアプローチにより高血圧の管理を行う。
-
食事性ナトリウム(Na)の制限-食事中のNa制限により血圧が低下するということは,実証されていない。
食事性Naの制限を行う場合には,薬物療法を併用して徐々に制限するようにする。 - カルシウム拮抗薬(CCB)-アムロジピンなど(0.125〜0.25 mg/kg,1日1回)を投与する。
- アムロジピンの投与量を倍量に増量する(0.25〜0.5 mg/kg,1日1回)。
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ベナゼプリルなどのACEI)またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(テルミサルタンなどのARB)とCCBを併用する。
脱水で状態が不安定な猫に対しては,十分に水和せずにCCBまたはレニンアンジオテンシン系阻害薬の投与を開始すると 糸球体濾過率(GFR)の急激な低下が起こる場合があるため,これらの薬剤の投与は行わないよう注意すること。
降圧治療に対する反応のモニタリング
通常,高血圧の猫では,適宜修正を行いながら生涯にわたる治療が必要となるため,継続的なモニタリングが不可欠である。
状態が安定化しても,少なくとも3ヵ月ごとにモニタリングを行う。
収縮期血圧 < 120 mmHgもしくは低血圧を示唆する虚脱や頻脈などの臨床徴候が起きないようにする。
血中クレアチニン濃度-血圧の低下と並行して,血中クレアチニン濃度が少しずつ上昇し続けることがあるが(0.5 mg/dL〈45 μmol/L〉未満の上昇), クレアチニン濃度が著しく上昇した場合は,薬剤の副作用の可能性がある。 持続的な上昇は,進行性の腎障害/腎臓病を示唆する。
タンパク尿
UP/C > 0.4を示すStage 2の猫では,検査によりタンパク尿に至った原因を調べ(以下の項目の1および2参照),タンパク尿に対する治療を開始する(以下の3および4参照)。
境界域タンパク尿(UP/C=0.2〜0.4)を示す猫では,注意深いモニタリングが必要である(以下の項目の1および4参照)。
- 治療可能な併発疾患または病態がないかを確認する。
- 基礎疾患の特定を目的とした腎生検の実施を考慮する(付録を参照し,必要に応じて専門家に相談する)。
- レニンアンジオテンシン系阻害薬(ACEIまたはARB)と腎臓病用の食事療法を行う。
- 治療に対する反応もしくは病状の進行のモニタリングを行う。
- 血中クレアチニン濃度は安定しUP/Cが低下している場合 = 良好な反応
- 血中クレアチニン濃度の持続的な上昇とUP/Cの上昇のいずれかまたは両方が認められる場合 = 病態の進行
通常は,基礎疾患が治らない限り治療を生涯にわたって継続する。
基礎疾患が解消した場合は,UP/Cのモニタリングを行いながら用量を減らしてもよい。
注意
-
臨床的脱水や循環血液量の減少徴候がみられる猫に対するレニアンジオテンシン系阻害薬は禁忌である。
これらの薬剤を使用する前に脱水の補正を行うこと。
脱水の補正を行わずに投薬すると,糸球体濾過率(GFR)が急激に低下するおそれがある。 -
タンパク尿および低アルブミン血症の猫は,犬と同じように血栓塞栓症のリスクがあると考えられる。
しかし,猫ではアセチルサリチル酸で選択的に抗血小板作用を得ることは難しい。
血漿アルブミン濃度が2.0 g/dL(20 g/L)以下の場合の推奨用量は,1 mg/kgを72時間ごとである。
リン摂取の制限
Stage 2の猫の多くは,正常な血漿リン濃度を示すが,血漿PTH濃度は上昇していることがある。
リンの摂取を長期的に制限し,血漿リン濃度を4.6 mg/dL(1.5 mmol/L)以下になるよう管理する(ただし,2.7 mg/dL〈0.9 mmol/L〉未満まで低下させない)ことは,
CKDの猫にとって有益であるというエビデンスがある。
これを達成するため,以下の方法を順序に従い取り入れるとよい。
- 食事中のリンを制限する(腎臓病用の食事療法)。
-
食事療法を開始しても血漿リン濃度4.6 mg/dL(1.5 mmol/L)を超える場合,
腸内リン吸着剤(水酸化アルミニウム,炭酸アルミニウム,炭酸カルシウム,酢酸カルシウム,炭酸ランタンなど)を効果が出るまで漸増しながら投与する。
初期の用量は日量30〜60 mg/kgとし,食事回数に分けて,食事に混ぜて与える。用量は,食事で与えるリンの量およびCKDの病期によって異なる。
リン吸着剤は効果が出るまで(上述の通り)投与を継続する必要があるが,それぞれの症例が毒性の症状を示す用量を最高限度とする。
カルシウムおよびリンの血清濃度が安定するまで4〜6週ごとに,その後も12週ごとにモニタリングを行う。
アルミニウム剤を投与中に小赤血球症や全身性の筋力低下が認められた場合には,アルミニウム中毒が疑われるため,他のリン吸着剤に変更する。
高カルシウム血症を予防するため,症例によってはアルミニウムを含むリン吸着剤とカルシウムを含むリン吸着剤の併用が必要である。
代謝性アシドーシス
代謝性アシドーシスが認められた場合には(血中重炭酸濃度もしくは総CO2 濃度 < 16 mmol/L), 適切な食事療法により状態を安定化させたのち,重炭酸ナトリウム(低カリウム血症が認められる場合にはクエン酸カリウム)を効果が出るまで経口投与して, 血中重炭酸濃度もしくは総CO2濃度が16〜24 mmol/Lの範囲になるよう管理する。
Stage 2の猫の治療に対するその他の推奨事項
- 低カリウム血症がみられる場合,グルコン酸カリウムまたはクエン酸カリウムを効果が現れるまで投与する(通常量は1〜2 mmol/kg/day)。
- Stage 2の猫で血清または血漿SDMA濃度が > 25 μg/dLの場合,Stage 3の猫における推奨治療に相当する治療を検討する。